2月7日(土)

 自宅に帰った丸山先生は、人間ドックでの不思議な話を妻の一美に話して聞かせた。一美は勤め先の会社で労務の仕事に携わり、その道のベテランであった。

「足つぼのマッサージをしているの人の話では、職業の中で教員だけ過労死とぼけが多いという」

「週40時間を超えると労働基準法違反だわ」妻は事務的な口調で言った。

日頃の鬱憤を晴らすかのように、

「教員の場合1日8時間だが、午後7時近くまでいるのが当たり前の先生が少なからずいるどころか、ほとんどではないか。土日に検定試験、就職模試、進学模試の監督業務で朝から午後まで働き詰めだし、部活も働き詰め。昼休みはあるにはあるが、休む暇がない。また、春、夏、冬休みは行事、業務がいっぱいで、実質、盆と正月しか休めないのが実態。また、教員の場合、仕事の正確から自宅に持ち帰りの仕事が多くあり、24時間働き詰めでないか。これは、明らかに労働基準法違反ではないか」

「会社の場合、労働者の代表と会社との間に労働協定書、就業規則があり、労働協定書は毎年更新されるわ。まず教員の場合も同じものがあるはずだから、そこから調べてみては」

「もし労働基準法違反であればどうなるのだろうか」

「労働基準監督署には逮捕特権があるわ」

「もしそうであれば、県知事、教育長、校長は逮捕されるのか」丸山先生は想像を膨らませた。

 某新聞の新聞記事を思い出す。××電力のサービス残業発覚の見出しで、出退館記録やパソコンに残っていた文書の保存時刻、電子メールの送信時刻から発覚したという内容だった。

 どこかの本で教員の仕事が全職業で5番目に忙しいと書いてあったが、労働基準監督署の調査が入ったとは聞いたことがない。労働基準監督署は、教員の過労死、サービス残業の実態に対して目をつぶっているのだろうか。

 人間ドックへ行ったときのおかしく思ったことを話すと、一美が「人から聞いた話だけど、生活保護を民生委員に申し込むと月13万円がもらえる。ところが、最低賃金は11万円。年金でもそんなにもらっていない。それだったら、無理して働く必要がない。特に母子家庭は、無理して働き子どもを誰かに預け、11万円しかもらえなかったら何をしているかわからないわ」

「世の中には、おかしな事がいっぱいある」丸山先生は大きく頷いた。

「ここらへんの学校は、雪のために公共のバス、スクールバスが遅れた場合遅刻にはしないが、親が生徒を自家用車で送っていった場合で遅れた場合、遅刻にすると聞くわ。 こういう情報は、お母さんどうしのネットワークでわかり、そのネットワークに入れないお母さんの子供が、不利な状態になっているわ」

妻の一美が思いを吐き出すように言った。