1月29日(木) 

 1階の職員室のすぐ上にある視聴覚室で、定例の職員会議があり、その冒頭に吉沢校長から独特の低い抑揚のない声で次の話があった。

「年度末にあたり、各先生方にお願いしたいのですが、3年次卒業生の単位を落とすことのないように配慮ください」

それに対して、丸山先生は

「単位を落とすことがないようにとのことですが、授業中あっち向いている生徒がいて、授業が困難でどうにもならないという話を聞きます。どうしたらよいかという問題があるわけですが、昨年から言っている面倒見の良い学校とは何でしょうか」と訊いてみた。

「年度当初にいった通り、例えば分数がわからない生徒が数人いたとする。その生徒達に対して・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

校長は不意を突かれた様子であったが、言葉の意味をさぐるように淡々と説明した。

「それでは、あっち向いている生徒に対してどうするのですか。あなたは、適性がないのだから、他の分野に移ったらと、面倒見よく説明するのか。あるいは、うるさいから寝とれ。うるさくするな。迷惑をかけるな。追試験、再試験、何でもする。何でも面倒見たるのどちらですか」と訊いたが何の応答もないので、校長に視線を向けたまま、さらに続けてたたみかけるように、

「うるさいから寝とれ。うるさくするな。迷惑かけるな。追試験、再試験、何でもする。何でも面倒見たるだったら・・・・・・あの人寝ている。ここ寝室ですか。この人話しかけてくる。ここ談話室ですか。だったら誰もこないですよ」

「その点については、授業担当者で判断ください」そっけなく答えて、終わってしまった。

 それから議件が進行し、以前問題になった表彰状の件になった。滝地先生が真っ先に手を上げ質問した。

いつもの率直にいう口調で、

「本校は、総合学科であるから専門高等学校等卒業生成績優秀者表彰はおかしいのではないですか」

少し間があいて、答えるのに迫られた江島教務課長が、ゆっくり周囲を見ながら、一つひとつ言葉を選ぶように慎重に、

「規定があって20単位」と言い始めたところで、

大須磨教頭がその発言をさえぎるかのように、

「専門高等学校等卒業生成績優秀者表彰には、表彰規定がないのです」

滝地先生の表情が笑っているかのように見えた瞬間、滝地先生が鋭く追及して、

「表彰規定がない表彰があるのですか」

大須磨教頭は顔をわずかながら赤らめ、

「表彰規定がない表彰があるのです。本当です」とはっきり言って答えた。

再度確認するかのように滝地先生が、

「本当にないのですね」と大きな声で念を押すように言うと、

大須磨教頭はいつものゆっくりとしたとぎれとぎれの口調に戻り、

「表彰規定はありません」と答えた。

その瞬間、時間が止まったように思えるぐらいに静まりかえった。なりゆきを見守ろうとしたところ、誰もそれ以上の発言はなかった。

 大須磨教頭は本校に十数年の長きにわたり勤務され、本校歴では最古参であり、吉沢校長は昨年度赴任された。また楢崎先生は某高校の教頭を最後に停年退職され、講師として採用され本校に勤務している。楢崎先生は校長が初任の時の先輩であった。