平成16年(2004年) 1月22日(木)

校長室の一角に会議用のテーブルがあり、それを取り囲むようにゆったりとした椅子が並べられている。1日の喧騒と緊張から逃れた放課後、ぼんやりと丸山先生は配られたプリントを見ていた。周囲には校長、教頭をはじめ、各課、各学年の主任が集まっており、それらで構成された校務運営委員会がすでに始まっていた。

 粛々とした進行を期待する中で、図書課長の滝地先生の声が響き、声の調子が上がっていることに丸山先生は気づいた。

「専門高等学校等卒業生成績優秀者表彰はおかしいのではないですか。本校は総合学科制をとっているのだから、専門学校等と名のつく表彰はおかしい。昨年もこの会議で同じことを言っているのに何にも変わっていないじゃないですか」

それに対して、間髪を入れずに多数の者が口を揃えて、

「もらえるものは、もらっといたらいいじゃないか」

「そうだ」

「そうだ」

「・・・・・・・・・」

と口々に言い合った。

「滝地先生、疑問に思うのだったら、このことをしっかり調べて下さい」丸山先生が何気無く言ったところ、他の者は黙りこくってしまった。

 その後、会議が終わり校長室と同じ1階にある職員室に戻ると、滝地先生が教務課長の江島先生と何か口論しているようだった。その内容は表彰規定がどうのこうのという内容で、途切れ途切れに、同じ職員室の向こう側にある丸山先生の座っている情報管理課の席にまで聞こえてきた。
  本校は、旧国道から北へ走ると、右手の町並みのきれぎれに見える標高約二千m級の××山連邦、続いて観覧車が現れ、県下有数の川へと行く手前を下流へと折れて、古い家並みの小径を少し下ったところにある。裏手に回ると左手に田園が広がり、その先には新国道を頻繁に行き交う車の長い列が直線に近い滑らかな曲線を描いて見える。
  コンクリート3階建ての校舎は、4棟からなり平行して建っている。校舎と校舎の間に細長くのびた花壇に植えられた木々は、校舎を覆うようにまっすぐに立っている。
  本校は公立高校の総合学科制で、前期・後期の2学期制をとっており、定期考査は、前期中間・前期期末・後期中間・後期期末の年4回ある。生徒の成績・出欠席は百以上の科目を扱うため、パソコンで操作できるようになっており、各職員室に10台近くの クライアントパソコン(子機) と1階職員室の一角にある資料室に設置されたサーバーパソコン(親機)とが結ばれた校内電算処理システム、通称「学事システム」で行われていた。またそれとは別に、3階の情報準備室にあるサーバーパソコン(親機)とスイッチングハブ等のネットワーク機器を中心に、各教室・職員室・準備室等にあるクライアントパソコン(子機)を網羅した校内ラン(校内ネットワーク)があり、インターネット及び校務処理に利用していた。

情報管理課の仕事は、その学事システム、校内ラン、パソコンを含めた情報機器・視聴覚機器、インターネットに関するものであった。丸山先生は、昨年度本校に赴任し、教科は商業科に属し、今年度情報管理課長になっていた。商業の免許はなく、数学、情報の免許しかないため、商業の臨時免許状で対応しており、主にパソコンを使用した授業(情報A、文書処理、情報処理、プログラミング、計算事務)を担当していた。

本校の職員室に触れると、1階に校長室があり、同じ階の職員室には教頭をはじめ、教務、総務、情報管理課、特活課(生徒会関係)があり、同じ棟の2階の職員室に3年のクラス担任と進路課が、3階の職員室に1・2年のクラス担任がいた。他に職員室、準備室等が校内に分散していた。

学校教職員の組織について触れると、校長・教頭の管理職がおり、その次に課長等の主任がくる。特に、教育全般を掌る教務課、学校全体にかかわる総務課は学校業務の根幹をなし、その主任たる課長が、次期管理職の一歩手前のポストと見なされている。また、それとは別に、教科ごとに主任が置かれている。