第1章  東日本大震災への対応 - 首相官邸ホームページ

東日本大震災への対応 - 首相官邸ホームページ - より抜粋

原子力災害専門家グループからのコメント

● 第一回 「放射線の規制値と実際の健康への影響」      平成23年4月7日

「○○産の○○から基準の○○倍の放射能を検出」という報道を見かけます。一方で「食べても健康影響はありません」とも言われます。基準値を超えているのに食べても差し支えないとはどういうことでしょうか。

「基準値」、例えば、食品の暫定基準値は、その食品を普段食べている量(日本人が一人あたりどれほどの量を食べているかという統計があります)を食べ続けても健康に影響が出る線量には到達しないように、それも安全性を見込んだ上で設定されています。ですから、一時的に この食品を食べても影響はないのです。 しかしながら、基準値を超える食品が出回り、長期的に消費者の口に入ることは好ましくないので、市場に流通しないような措置(出荷制限)を取るわけです。

(酒井 一夫・(独)放射線医学総合研究所 放射線防護研究センター長)

「この食品を食べても影響はないのです」について取材すると

問題になっているセシウムやヨウ素は、とらないに越したことはありません。

個人差もあるので、少量でもガンになる可能性はあります。体内に取り込まれると、遺伝子を破壊しますので、細胞分裂が盛んな子どもは、特に影響を受けます。放射性物質によってもたまる場所は違います。ヨウ素は甲状腺。セシウムは全身。ストロンチウムは骨にたまり、ガンを誘発します。どれ位なら大丈夫ということは無いので、出来るだけ、東北関東を避けた産地のものを選んで下さい。 5/3

●第三回 「チェルノブイリ事故との比較」 ( 平成 23 年 4 月 15 日 )

(長瀧 重信・長崎大学名誉教授(元(財)放射線影響研究所理事長、国際被ばく医療協会名誉会長))

(佐々木 康人・(社)日本アイソトープ協会 常務理事(前 放射線医学総合研究所 理事長))

チェルノブイリ事故の健康に対する影響は、20年目に WHO, IAEA など 8 つの国際機関と被害を受けた3共和国が合同で発表(注1)し、25年目の今年は国連科学委員会がまとめを発表(注2)した。これらの国際機関の発表と福島原発事故を比較する。

1.原発内で被ばくした方

*チェルノブイリでは、 134 名の急性放射線障害が確認され、 3 週間以内に 28 名が亡くなっている。その後現在までに19名が亡くなっているが、放射線被ばくとの関係は認められない。

*福島では、原発作業者に急性放射線障害はゼロ(注3)。

2.事故後、清掃作業に従事した方

*チェルノブイリでは、 24 万人の被ばく線量は平均 100 ミリシーベルトで、健康に影響はなかった。

*福島では、この部分はまだ該当者なし。

3.周辺住民

*チェルノブイリでは、高線量汚染地の 27 万人は 50 ミリシーベルト以上、低線量汚染地の 500 万人は 10 〜 20 ミリシーベルトの被ばく線量と計算されているが、健康には影響は認められない。例外は小児の甲状腺がんで、汚染された牛乳を無制限に飲用した子供の中で 6000 人が手術を受け、現在までに 15 名が亡くなっている。福島の牛乳に関しては、暫定基準 300 (乳児は 100 )ベクレル/キログラムを守って、 100 ベクレル/キログラムを超える牛乳は流通していないので、問題ない。

*福島の周辺住民の現在の被ばく線量は、 20 ミリシーベルト以下になっているので、放射線の影響は起こらない。

一般論としてIAEAは、「レベル7の放射能漏出があると、広範囲で確率的影響(発がん)のリスクが高まり、確定的影響(身体的障害)も起こり得る」としているが、各論を具体的に検証してみると、上記の通りで福島とチェルノブイリの差異は明らかである。

長瀧 重信 長崎大学名誉教授

    (元(財)放射線影響研究所理事長、国際被ばく医療協会名誉会長)

佐々木 康人 (社)日本アイソトープ協会 常務理事

     (前 放射線医学総合研究所 理事長)

「4月の時点で福島の原発事故はチェルノブイリ事故で放出された放射性物質の 1/10 との報道がありましたが、現在はどうなっていますか」について取材すると

チェルノブイリと比較して放射性物質が 1/10 と言われておりますが、チェルノブイリ 25 年分の 1/10 が福島の 1 カ月分となります。以上からチェルノブイリ以上の放射性物質が出ていることになります。

でも 1/10 の根拠もありませんし、実際には分らないところだと思いますが、福島の原発事故もレベル7になった事で同じ規模と言わざるを得ないと思います。いまだに収束する見込みもたってないし、チェルノブイリ以上になる可能性もあります。政府の発言を見ても明らかに最初と違う発言になっています。最初は「安全だ!すぐ影響は出ない!問題ないレベルだ!」と言っていましたが今はあまり言いません。今後の対応次第でチェルノブイリ以上にも以下にもなると思います。 5/5

「チェルノブイリ事故は実際、どうだったか」について取材すると

チェルノブイリフォーラムという会議があり、大変多くの科学者と複数の国連機関の合同発表と言う形で結果が取りまとめられました。

UNSCEAR( 国連科学委員会 ) の報告です。

http://www.ncc.go.jp/jp/information/pdf/shiryo1.pdf

このチェルノブイリフォーラムの結果については、 IAEA や WHO と言った各機関でも数字が変わってきています。これは、対象となる範囲に差があるからです。

範囲を原発作業員だけにするのか、チェルノブイリ地域にするのが、被曝 3 国にするのか、全世界にするのか、これにより差がでてきます。

政府は影響を過少に見せるために原発作業員だけに絞った見解をだしました。余計に不信感を煽っただけでした。

国連の各機関や国家が想定している被害者数はこちらをご覧になるとわかりやすいかと思います。

http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/tyt2004/imanaka-2.pdf

また何をもって放射線の影響とするのか。もともと発癌率が高い地域や平均年齢が低い地域もあります。避難によって職を失いアル中になった方の死因を放射線とするかどうかという議論もあるようです。

会議で賛同されなかった持論を持つ科学者による批判もあります。中には 100 万人以上という意見も。それらについては、こちらの方が的を得た評価をされています。

http://www.tweetdeck.com/twitter/kmiura/~XjQ5N 5/4

●第四回 「「被ばく」と「汚染」、「外部」と「内部」」 ( 平成 23 年 4 月 18 日 )

(前川 和彦・東京大学名誉教授((独)放射線医学総合研究所緊急被ばくネットワーク会議委員長、

 放射線事故医療研究会代表幹事))

「被ばく」と「汚染」の違いを正しく理解しましょう。また、被ばくには「外部被ばく」と「内部被ばく」とがあります。

1.外部被ばく

  放射線を出す物質(放射性物質、線源とも言います)が身体の外にある場合、この線源から出た放射線を浴びることを「外部被ばく」と言います。病院でレントゲン写真を撮ってもらうのは「外部被ばく」です。通常は被ばくを受けた人が放射線を出すことはありませんので、周りの人に健康被害を及ぼす危険性は全くありません。従って周りの人が自らを守るための放射線防護策は全く不要です。

2.表面汚染

  一方、放射性物質が衣服や身体の表面に付着することを「表面汚染」と言います。この放射性物質は、そこにある限り放射線を出し続けますから、表面汚染を持つ人も周りの人も放射線を浴びることになります。周りの人は、自らを守るために放射線防護策が必要です。また、この汚染が他人や環境中に拡がらないように、汚染拡大防止策を講じなければなりません。

3.内部被ばく

  放射性物質を吸ったり、飲んだりして放射性物質が身体の中に入った場合、放射性物質が身体の内部にありますので「内部汚染」といいます。内部汚染の結果として身体の内部構造が放射線の被ばくを受けることになりますので、これを「内部被ばく」と言います。この場合、極めて僅かですが周りの人が放射線を浴びることもあります。

4.今回の場合

 福島原発の周辺から避難された方々は、もし外部被ばくをされているとしても極めて僅かな線量であり、なんらかの問題があるとすれば衣服の表面や身体の露出部(頭、顔、手など)の放射性物質による「表面汚染」です。 避難される時に放射線検出器で汚染がないことが確認されています ので、避難された方々には、周りの人に影響を及ぼすものは何もないことになります。

前川和彦 東京大学名誉教授

   ((独)放射線医学総合研究所緊急被ばくネットワーク会議委員長、

     放射線事故医療研究会代表幹事))

「避難される時に放射線検出器で汚染がないことが確認されています」について取材すると

全員ではなく、希望者だけ、検査を受けています。  5/3

● 第五回 「放射線から人を守る国際基準〜国際放射線防護委員会( ICRP )の防護体系〜」

( 平成 23 年 4 月 27 日 )

 (佐々木 康人・(社)日本アイソトープ協会 常務理事(前 放射線医学総合研究所 理事長))

国際放射線防護委員会( ICRP )は、放射線から人や環境を守る仕組みを、専門家の立場で勧告する国際学術組織です。 ICRP は、人が受ける放射線(被ばく)を、1 . 計画的に管理できる平常時(計画被ばく状況)/2 . 事故や核テロなどの非常事態(緊急時被ばく状況)/3 . 事故後の回復や復旧の時期等(現存被ばく状況)‐‐‐の3つの状況に分けて、防護の基準を定めています。

平常時には、身体的障害(*1)を起こす可能性のある被ばくは、絶対にないように防護対策を計画します。その上で、《将来起こるかもしれないがんのリスク(*2)の増加もできるだけ低く抑える》ことを、放射線防護の目的としています。

そのため、放射線や放射性同位元素を扱う場所の管理をすることにより、一般人の被ばくは年間1ミリシーベルト以下になるようにしています(公衆の線量限度)。また、放射線を扱う業務に従事し、被ばく線量を常時観測できる人には、5年間に 100 ミリシーベルト(*3)という被ばく線量限度を定めています(職業被ばくの線量限度)。

一方、万一事故や核テロにより大量の放射性物質が環境に漏れるような非常事態が起こった場合には、緊急時被ばく状況として、《重大な身体的障害を防ぐ》ことに主眼をおいて対応します。

このため、上記の線量限度は適用せず、一般人の場合で年間 20 〜 100 ミリシーベルトの間に目安線量(参考レベル)を定め、それ以下に被ばくを抑えるように防護活動を実施します(*4)。また、緊急措置や人命救助に従事する人々については、状況に応じて、 500 〜 1000 ミリシーベルトを制限の目安とすることもあり得ます。

平常時には起こり得ない身体的障害が、非常時には起こり得ます。そこで、その防護対策が、平常時の対策(将来起こるかもしれないがんのリスクの増加を抑えること)より優先して行われます。

その後、回復・復旧の時期に入ると、住民の防護目安は、緊急時の目安線量よりは低く平常時の線量限度よりは高い、年間 1 〜 20 ミリシーベルトの間に設定することもあります。

佐々木 康人 (社)日本アイソトープ協会 常務理事

     (前 放射線医学総合研究所 理事長)

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* 1. 身体的障害:吐き気、頭痛、皮膚のやけど、下痢、脱毛などの放射線被ばくによって起こる症状で、 1000 ミリシーベルト以上の被ばくで起こり、それ以下の線量では起こらない。

* 2 .がんのリスク:高い線量を受けた場合、 1000 ミリシーベルト当たり 10 %(短期間の被ばく)または5%(何年にもわたる被ばく)程度、がん発生率の増加がある。なお、 100 ミリシーベルト以下では、科学的には確認されていないが、これと同じ割合でがん発生率が増加 ( = 100 ミリシーベルトで 1 %または 0.5 % ) するリスクがある、と放射線防護上想定している。

* 3 .ミリシーベルト:放射線による《人体への影響の程度》を表す、放射線防護のための単位。

* 4.  今回の福島での事故に当たり、日本の原子力安全委員会は、この ICRP の定める緊急時被ばく状況の国際的な目安の中から、最も厳しい ( 安全寄りの ) 数値=年間 20 ミリシーベルトを基準に選び、政府はそれに従って避難等の対策を決定した。

よくあるご質問

Q1:より深刻な事故になったということですか?

A1:違います。

今回の発表は、新たな事態の発生を意味するものでは全くありません。今回、原子力安全・保安院及び原子力安全委員会がこれまでの解析結果や周辺地域の放射性物質測定値から逆算して、事故現場での放出量を推定したものです。つまり、「レベル7になった」のではなく、「レベル7であることがわかった」というのが正確なところです。

Q2:チェルノブイリと同じ深刻度の事故ということですか?

A2:違います。

事故発生以来の放射性物質の総放出量で比較すると、現時点で、今回の事故はチェルノブイリ事故の時の約10分の1です。ただ、原子力施設事故の指標として用いられている「INES評価」という物差しでは、レベル分けは「7」までしか分類が無いため、福島もその 10 倍のチェルノブイリも同じランクに入ってしまうということです。

Q3:放射性物質放出の仕方も、チェルノブイリとは違うのですか?

A3:はい、違います。

チェルノブイリでは、原子炉が爆発した後、大規模な火災が発生し、多量の放射性物質が広範囲に拡散しました。福島では、水素爆発があったものの、原子炉本体ではなく、その外部であり、大規模かつ継続的な火災はありません。

ただ、放射性物質の放出が爆発的ではないかわりに、持続的である点は、留意しなければなりません。つまり、放出が止められるまでは、積算量は少しずつ増えてゆくという状態です。長期的な監視や、計画的な対応が必要となります。